自然資本への取り組み方は企業の信頼を左右する ~「6種類の資本(3) 」2025年のためのリーダーのための新常識 第11回
6種類の資本(1)で、「資本」は財務資本中心から製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本も含めて総合的に考える必要があると書きました。その中で、「自然資本」も20世紀にはなじみがなかった概念です。
人は古代から、魚を漁って売る、鉱物を加工した道具を売るなど「天然資源」を活用してビジネスをしてきました。その「天然資源」のストックを「自然資本」として企業ガバナンスの対象とし、企業に扱い方の説明責任があると考えられるようになったのは、大きく2つの理由があると考えられます。
一つは、幅広い資源の有限性、自然環境の変化の資源への影響が明らかになってきたことです。例えば、飲料メーカーにとって「水」は、いつまでもあることが前提でした。しかし、山の自然が壊され、地下水のストックが失われることで、水が豊富に確保できない状況が生じる危険性が高まっています。飲料メーカーにとって、採水している山や森の生態系に対して、どう考え、どう取り組むかは、企業の中長期的な成長の判断材料になりうるのです。
また、近年、気候変動が作物や海洋資源の分布に大きな影響を与え始めています。ある作物の特産地だったのが気候が変わることで、収穫量も質も落ちてしまいます。日本の経済活動における総物質投入量の約40%は海外天然資源と言われており、遠い国の干ばつが企業の資源確保にダメージを与える危険性も高まっています。また、太平洋クロマグロの漁獲が10年で半減し、絶滅危惧種にも指定されるとマグロが突然、高騰するリスクも高まっています。気候変動や生物資源の減少がビジネスに深い影響を与える中で、企業の姿勢やアクションが問われ始めています。
自然資源が注目されるもう一つの理由は、自然はただの素材を提供するだけでなく、多面的な付加価値を生み出していることがわかってきたからです。先日、沖縄のサンゴが危機的状況にあると報じられました。沖縄のサンゴが失われ、多様な魚がいなくなれば、食材だけでなく沖縄の海の魅力が失われ、それは観光やリゾートの競争力に大きな影響を与えます。また、近年、世界遺産などに登録される際、ただ建物、自然だけでなく、地域の自然環境を活かした生活文化などが総合的に評価されるケースが増えています。森が荒れ、里山の風景が失われることは、単に林業や農業の問題だけでなく、生活文化が失われることも意味します。企業が海外で天然資源確保に投資した時、それが土地の文化を破壊したことになったなら、思いもかけない批判を受けることになってしまいます。天然資源の便益を多面的に捉え、そのストックをどう豊かにするのか企業は責任を問われる時代になってきています。
このような自然資本を企業に問う考え方は、この10年で広がってきています。例えば、コカ・コーラ社は、製品に使った量と同じ量の水を自然に還元する「Water Neutrality」をグローバルに推進しています。飲料会社が水を使うのは当たり前ではなく、水という資源をどう守るのかは、企業の自然資本のガバナンスの一部だと考えられるようになっています。
これから、気候変動の進展、天然資源の危機が深刻化していく中で、2025年には自然資本に対する姿勢は多様な目で厳しく問われる時代になるでしょう。サステナビリティは余力があれば行う社会貢献ではなく、事業の持続性の前提条件への考え方を問われるテーマとなります。その際、単に自社内の省エネ、環境配慮、ゴミ廃棄をしていればいいのではなく、企業のサプライチェーン全体が問われる時代になります。
例えば、コンビニでお寿司弁当を出す時、コンビニは海洋資源についてどう考え、どのような漁業者や物流と取引し、どんなアクションしているのか、問われるようになります。それは、飲食関連産業だけでなく、私たちの生活の前提として、すべての産業に影響を与えるようになるでしょう。
サンケイビジネスアイ 掲載サイト
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