組織資本が利益の源泉となる ~「6種類の資本(2) 」2025年のためのリーダーのための新常識 第10回
6種類の資本(1)では、これまで「資本」というと財務資本が中心で考えられてきましたが、これからは製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本と総合的に考える必要があると書きました。新しい5つの資本の中には、あまり馴染みのないもの、一般的なイメージと少し違う新しい定義のものもあります。
例えば、「知的資本」と聞くと、多くの人は特許や商標権、著作権など「知的財産」を思い起こすでしょう。確かに、知的財産は知的資本の重要な構成要素です。しかし、国際統合報告ガイドラインの知的資本は、知的財産権に加えて、組織資本を含むとしています。
「組織資本」という言葉が注目されるようになったのは、比較的新しく2000年前後くらいからです。
最初のきっかけはIT化が進んでいるのに、なぜ多くの企業にとって、それが生産性を改善し利益率が向上することにつながらないのか、という疑問からでした。90年代後半、IT革命が盛んに言われた頃、IT化が進展すればどんどん生産性が上がり、人々は楽に利益を生み出せるようになるという意見もありました。もちろん、IT化によって業務が効率的にできるようになりましたが、そんなに仕事は楽になっていないし、IT化を進めるすべての会社の利益率があがる訳でもなく、むしろ格差は広がっている。それは、なぜなのか、研究が進んだのです。
そこで明らかになったのは、IT投資は、業務プロセスの再設計・再構成、それに適応した人材の育成や確保ができた場合に、数年間のタイムラグをもって生産性や企業のパフォーマンスが向上につながるということです。例えば、MITのErick Brynjolfsson教授の研究では、IT投資で効果をあげている企業は、組織資本や人的資本にハード投資額の約9倍の投資を行った後、3~7年以上の期間を経て効果を上げていることを実証しました。
これは、ITをいくら導入しても業務の進め方や意思決定のプロセス、人材の評価の方法などを変えなければ、大きな効果は出ないということです。例えば、「イントラネットでカレンダーを共有し、会議を効率化しようとしても、管理職が手帳でスケジュール管理しているので、結局、オンラインで決めれない」「他の部署にチャットで社員が勝手に連絡すると、正式なルートを通すべきという意見がでる」といったことは、社内情報化あるあるですが、これでは、いくらIT投資をしても、経営者とコンサルタントが立派な計画を作っても、現場での意思決定のスピードも生産性もあがりません。
これらは「小さなこと」ではなく、これらを放置している時点で、企業として「組織資本を向上していない」といえ、利益の源泉をつぶしていると判断されます。
このことは、2020年代に向けて大きな示唆を持っています。これからテクノロジーが進展し、ICTの一層の進展に加えて、AI、IoTなどがビジネスで重要な役割を果たすようになります。
いくら窓口をロボットにしても、IoTで顧客の利用情報が蓄積できても、それを導入することで、どう業務フローや意思決定プロセスを変えるのか、新しいプロセスを使いこなせる人材を確保し、その人材をリーダーとして新しいチームを作っていくのか、そのような組織資本の向上を行っていなければ、利益を生み出すことはできないでしょう。
社会も市場もテクノロジーも変化します。その変化に、単発や個人レベルで対応するのではなく、変化を活かせるような仕組みや組織のあり方を持っているのか、そして機敏に更新していけるのか。その「組織資本」を整えていけなければ、今いくら利益を出していても数年後の未来は危ないでしょう。
組織資本は、利益を生み出す元手として、ますます重要になっていくのです。
参考資料:宮川努ら「無形資産(組織資本および人的資本)と企業パフォーマンス」RIETE
イノベーションズアイ 連載コラムより
掲載サイト http://www.innovations-i.com/column/2025leader/10.html