持続可能なビジネス・地域へのシフトを促す
企業・地域でのサステナビリティ・リーダーの育成
変化する世界の中で新しい価値を生み出せる組織風土を
企業にとってサステナブル経営が必要になるのは、経済環境、社会環境、自然環境、テクノロジーが、どんどんと変化していく中で、どのように長期にわたり価値を創造するか、経営戦略を立て、実行していくことが求められているからです。これまでのマネジメントでは、現状の市場への最適化が重視されてきましたが、外部環境の変化に対応できる準備を整えることが必要になります。
経済社会の状況がどんどん変化する中で、起きうるリスク、潜在的な機会への対応力を、経営から現場まで整えておくことが大切になります。しかも、その備えを社内の一部の人間だけで行っていては、急な変化にすぐに対応して動くことはできないでしょう。日頃から多様なステークホルダーとコミュニケーションを通しての関係づくりが大切になります。
サステナビリティを、「外部からの要求に対応しないといけないこと」と考えると組織に根付かせるのは難しいといえるでしょう。社会のサステナビリティとビジネスのサステナビリティを結び付けるのは、個々人の内発的な変化です。それには、一人ひとりが「やりがいを持って、社会に役立っている実感を持てる仕事」をしていくことが大切になります。
ただし、その実現には、次のような要素が必要になります。
- 社会に目を向けて変化に気付き、それを自分の事業と結び付けて考える
- 顧客のニーズの変化のいち早い理解
- 自分(たち)の強みの自覚と強みの強化
- 改善や新事業のアイデアをつくり、育て、提案につなげる仕組みづくり
- 自分の仕事の社会的意義を自覚し、誰かに役立っていると実感できる環境
これらを組織内のメンバーが実践するには、ただ知識を提供するではなく日常行動に反映され、組織風土として定着することを目指すことが必要です。それには、時代・社会の中での自社の位置づけと現場の両方を深く理解した上で、実践を通して風土づくりにリーダーシップを発揮する人材が大切になります。
そのようなサステナブル経営を支える「サステナビリティ・リーダー」とは、企業でいえば経営層や経営企画担当者だけでなく、各部署での現場での組織風土改革を推進するリーダーシップを発揮する人材を想定しています。
持続可能なビジネスを実現するには、組織文化を20世紀型を脱し、変化に強い文化へと変えることが不可欠となる。
メガトレンドの中で2025年に実現したい組織文化
持続可能性キー・コンピテンシーの身近なロールモデルとしてのサステナビリティ・リーダー
組織文化の変化を進める上でカギとなる概念が「持続可能性キー・コンピテンシー」です。「持続可能性キー・コンピテンシー」は、ユネスコのESD(持続可能な開発への教育)の経験から、持続可能な世界の担い手に求められる考え方、動き方を8つにまとめたものです。(詳しくは書籍「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」にまとめています)
「持続可能性キー・コンピテンシー」は、日常の行動、選択・判断、意思決定を変えてこそ、役立つものになります。個人の意識に頼るだけでは、既存の慣習に縛られてしまいがちです。統合報告のあり方も、多くの担当者は統合報告ガイドラインの趣旨を理解しても、現場の中で実行しようとすると上司や周囲の声も含めて従来の事業報告の“常識”の中に押し込められてしまうこともあります。
「持続可能性キー・コンピテンシー」を実践するためには、実践できる組織風土を整える必要があります。
組織風土を私たちは「行動や信念,価値観などが、組織の中で一緒に物事を行っていく上でパターン化され、不文律の行動規範となっているもの」と考えています。組織の中では、起きた状況に対する判断・対応・行動するのかが組織内で繰り返し行われてきた中で、無自覚にパターン化されていることが多いです。それが“文化”“組織風土”と認識されます。
これを変えていくには、組織風土の新しい姿の描き、共有しながら、各構成員がこれまでの自分の認識・行動パターンを自覚した上で、新しい行動様式を体験し、その意味に気付くことが必要になります。同時に、各人が新しい行動を取りやすくなる環境整備を進めると共に、新しい行動様式を体現している身近なロールモデルの存在が必要です。
組織内の身近な職場にいるロールモデル、それがサステナビリティ・リーダーです。
持続可能性キーコンピテンシー
UNESCOのSDGs学習目標より
- システム思考コンピテンシー
多面的に考え、知識を統合する - 予測コンピテンシー
ありうる未来を考え、先を見越して動ける - 規範コンピテンシー
物事に内在する規範や価値観を理解し、調整する - 戦略コンピテンシー
変化を実現する道筋をつくる - 協働コンピテンシー
他者と共に計画し、行動する - 批判的思考コンピテンシー
規範、実践、意見を省み、問う - 自己認識コンピテンシー
自分の役割、行動、感情や願望を省みる - 統合的問題解決コンピテンシー
統合的な問題解決を実現する
サステナビリティ・リーダーの役割
持続可能な事業を生み出す風土をつくるため、サステナビリティ・リーダーは、下記の3つの要素を組織に根付かせていくことが役割となります。
サステナビリティ・リーダーの役割
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1.サステナビリティの考え方を学び、視点の転換を促す
- 自分達の事業の前提となっている経済・社会・環境の構造を理解し、それが変化していくことに気付く
- 求められることに応じて動くだけでなく、これからの社会・市場の中で自分達に何が求められ、どのような貢献ができるのか考える
- 要素還元的な思考モデルを超え、複雑な問題を扱うシステム思考を根付かせる
2.対話の文化を組織に根付かせる
いくら新しいことを導入しようとしても、対話の文化が根付いていない組織では、ビジョンや新概念を自分の中で落としこむことも、ルーチンで行っている仕事を見直す気運も、お互いの強みと課題に関心を持って助け合うことも難しい。
対話の文化を根付かせることで下記のような効果が期待できる。
- お互いの関心・視点・強みを理解し、協力して物事を進める基盤をつくる
- 個々の社員がアウトプットする機会があることで、インプットも増える
- それぞれの関心も広がり、視野や触れる情報が広がることで、より質の高い情報が集まりやすくなる
- お互いが話すのに慣れているから、困り事や課題も話題に出しやすくなり、課題の早期発見と対応スピードが高まる
3.変化に強くなる仕組みを参加型でつくり、現場に組み込む
- 現場で感じる課題や気付いた変化を共有し、話し合える仕組み
- 社外の出来事、研修、ニュースなどの情報・知識をチームに還元し、日常業務に活かすための仕組み
- 改善や新規事業のアイデアを出し合い、それを自分達で育てる仕組み
- 自分達の成果や変化を自分達で評価し、自ら発信していける仕組み
サステナビリティ・リーダー育成プログラム
サステナビリティ・リーダー育成には、①幹部研修とリーダー候補の選定、②サステナブル経営の知識習得、③スキル研修と対話の実践、④参加型の仕組みづくり、⑤成果評価と定着戦略、の5つが必要となります。
サステナビリティ育成プログラム
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1.幹部研修とリーダー候補の選定
この取り組みは、サステナビリティ実現に必要なことを現場の組織風土として根付かせることにある。そのため、経営陣、幹部層が趣旨をよく理解し、ビジョンを共有した上で、現場で新しい文化づくりにリーダーシップを発揮する人材を選ぶ必要がある。候補者は、現状で管理職についていない次世代リーダー候補から選ぶ。
1)幹部向け研修「事業の未来を拓くサステナブル経営」
2)サステナビリティ・ビジョンづくりワークショップ
3)サステナビリティ・リーダー候補の選定
2.サステナブル経営の知識習得
リーダー候補人材向けに研修を行い、実践の基盤となる知識を習得してもいながら、自分の実現したいことと役割を自ら定めていく。
1)研修「サステナビリティ経営の実現に向けた、変化の時代の事業構想」
2)研修「複雑な社会問題を理解し、解決策をつくる!システム思考・デザイン以降」
3)マイ・ビジョンづくりワークショップ
3.スキル研修と対話の実践
対話の実践と定着を軸に進める中で、「持続可能性キー・コンピテンシー」をリーダー自身が習得すると共に、組織に広げていく。
1)研修「対話の場づくりとファシリテーション、ワークショップ・デザイン」
2)ワークショップ「チームに必要な対話を考え、デザインする」
3)定期的な対話の場の実践、中間ふりかえり(評価、改善)を循環して行う
4.参加型の仕組みづくり
対話の経験を通して見えてきたチームの強みと課題、社内外の動向と事業の結びつきを基に、これからのリスクと機会を明確にした上で、サステナビリティを高める仕組みを設計し、実践する。
1)ワークショップ「チームの強みと課題、これからのリスクと機会を考えよう」
2)研修「業務改善と新事業の芽をつくり、育てるために必要なこと」
3)ワークショップ「チームに必要な仕組みをデザインする」
4)幹部も交えたワークショップ「サステナブル経営の実現戦略を具体化する」
5)仕組みづくりの実践、中間ふりかえり(評価、改善)を循環して行う
5.成果評価と定着戦略
実践と学びを通して、サステナビリティ・リーダー自身がどう変化したか、チームや組織に与えた影響は何か、ふりかえる。その上で、中長期的な視点から、どのように取り組みを定着していくのか、戦略を立てる。
1)ワークショップ「自分の変化、チーム・組織の変化をふりかえる」
2)ワークショップ「チームの統合報告とサステナビリティ戦略をつくろう」