あらかわヘルシータウン・クリエイティ部 第4回(2015年12月7日)レポート

健康な街をつくるために医療ができることは何か、医療は地域とどのように関わっていけばいいのか、家庭医の藤沼康樹先生からお話しいただき、医療と地域のつながりについて考えました。

#5 家庭医の視点から考えるヘルシータウン

医師の見えていること、いないこと」

*藤沼康樹先生(家庭医)のお話

家庭医とは?

日本の開業医は、診療科の表示が自由など、定義が不明確な部分がある。また、日本の医療機関は専門性を前面に出しているが、患者は自分の症状から、どの病院・診療科に行くのか、患者自身が決めなければならない国となっている。最初に総合的に相談できるプライマリ・ケアを、多くの市民に果たせていない状況がある。
そこから、「家庭医」という概念が出てきた。
家庭医は、診療所における非選択的なプライマリ・ケア外来、患者の状態の変化に応じた継続的なケアの提供に加えて、在宅利用、各種ケアのコーディネーション、予防医療・ヘルスプロモーションの提供、家庭の相談医、地域の健康問題へのアプローチなどを担う。

《家庭医の役割:4つのC》

  • 1st Contact 最初の接点
  • Comprehensiveness 包括的
  • Continuity  継続性
  • Coordination コーディネート

〔藤沼先生の考える現在の医療課題〕

  • 現在の大都市部の健康問題のほとんどは、プライマリ・ケアの問題。
    • 大都市への人口流入→健康格差の拡大(大都市の不健康は地方の不健康より深刻)
    • 高齢者人口の爆発的増加。 多疾患併存、カオスなケース。在宅医療のニーズ増大、
    • 地域包括ケアの作りにくさ、高齢者救急の悲惨
    • 医療システムがカオス状態。 プライマリ・ケアの分断、救急対応の不確実性
    • 国際都市Tokyo。 輸入感染症。HIV。マイノリティのケア。
  • 高齢化率が話題になるが、高齢者像は変化している。高齢者の体力も20年前と比較すると高く、昔よりも元気な人が多い。「高齢者」の定義を変えていかないといけないのではないか?
  • 高齢者が増えるということは、一日を通して地域にいる人が増える側面もある。その意味を積極的に活用する必要があるのではないか。
  • 一人当たり医療費は、年齢毎に高くなっている。これは、最期の1週間に多大な医療費がかかっているためであろう。最後の1週間は高額医療のレセプトの10%だが、費用の50%を占めている。個人としても、どのように最期を迎えるのか、最期7日間への意志を事前に考えないといけない。
  • 都市部の救急が手一杯のため、高齢者救急への対応が悲惨なことになっている。首都圏よりも沖縄の方が救急アクセスがいい。
  • 今、家族の不安を支える仕組みがない。そのため、医師からみると不要な患者が、救急車を呼び、入院している場合も多い。不安感が救急につながり、コスト増にもなっている。しかし、入院の必要ない患者さんに対応できている医師は少なく、対応が必要。
  • 地域と医療のつながりの取り組み事例として下記のようなものがある。

・ER(救命救急)における帰宅支援部
・暮らしの保健室(不安感への日常からの対応)
・ドイツの不必要な入院を防ぐ研究(104事例の入院が防げなかったか検証 Freud)

  • 高齢者が増えるということは、多疾患併存の患者が増えること。医師は、個々の病気への対応法を習得しているが、疾患を複数もつ患者への対応法は医学部では教わらないし、慣れてもいない。高血圧、心房細動、関節炎、湿疹、白内障、不安(神経内科)といった複数の病がある時、それぞれの「専門医」にかかって、それぞれからもらった薬を患者が自分の工夫で飲んでいる。すると、昨日もらった薬が飲むとふらふらするといった状況で、患者は誰に相談すればいいか、わからない。
  • 複合的な課題に対して、患者の自己判断よりも、信頼できるプロフェッショナル(つなげるナース)を介して、つながることが必要。
  • 総合的な対応が必要だということで、地域包括ケアが出ているが、民間事業所は囲い込む傾向にあり、自治体が積極的に中心となる役割を果たさない地域では難しい。

〔藤沼先生の考える、これからの地域での取り組みで必要なこと〕

  • 患者及び介護者にセルフマネジメントについて教育する。特に症状悪化時の対応法を知っておくことが不安を軽減する。
  • 入院となった原因・責任を各セクターで共有していく取り組み

*質疑応答と対話から出された、これから必要なこと

  • 介護予防の活動で、もっとセルフケアのアドバイスができるのではないか。医療機関などに来てからでなく、コンビニなどで声かけをし、把握した情報を集めることができるようになる仕組み。
  • 病院、体操、相談など健康に関することを、あちらこちらが対応しているが、個別で取り組んでいることが関連している人たちで共有すること。
  • 街のお医者さんは独りぼっちで、自分が診療経験や苦労していることなどは話さないし、話し相手もいない。MRなどが、診療所の医師の悩みに対応するところから、医師を地域ネットワークに参加してもらうような仕組み。
  • 医療は専門性が優先する文化で、家庭医、総合診療医を、医療の内部から生み出した国はない。どの国でも行政か住民が主導で始まっている。専門的でないことは、2流の医者と考える文化もあり、家庭医、かかりつけ医を、どう医療で位置付けるか。ただし、医師は外来の外の生活の場は見えていない場合が多い。「家庭単位のかかりつけ医」など、ぜひ医療外の人たちから必要性や提案を発信してほしい。
  • 家庭医を増やすために、今から医学部で育成しても時間がかかるし、遅い。既存医師の再教育が必要。同時に、医師にできることには限界があり、患者が医師にいきなり相談にいくよりも、訪問看護や、つなげるナース、薬局の薬剤師などに相談していく社会にすることが大切。
  • 医師が限られた状況では、リスクが「非常に高い」「高い」ところに医師を集中的に置き、リスク中程度までは、看護師などコメディカルがまず対応する方が社会コストからみてもいい。しかし、日本の病院・診療所はリスク中の人で稼いでいる。開業医はリスク高をメインに、リスク中程度を訪問看護師が行う管理を担うといった役割分担を実現することが大切だろう。
  • 診療所の看護の役割はたくさんある。また、薬局で、もっと相談やアドバイスができることはある。例えば、禁煙指導は薬局を軸に実施するなど。薬局が問診し、薬の提案ができるような機能を担うことはできる。
  • 患者や家族は「内科の先生に整形外科の話を訊いていいのか?」と感じるが、これは、 医者、薬屋のつくってきた文化。それも専門性の分断につながっている。
  • 近年、他の専門職が何を得意としているのか?を理解するようになっている。この動きを広げることが大切。
  • 高齢者が増え、最期の急性期医療が膨らむ中、介護と看取りの連携も大切になる。
  • 23区内でも、疾患率などに大きな差が生じている。フロー所得、資産、人のつきあい、教育などが関係してきている。収入が低く、教育が低いことは健康に大きな影響を与える。学歴・識字率とヘルスリテラシーは並行している。
  • 健康寿命には社会参加やソーシャルキャピタルが重要だが、それも所得や学歴の高い人がもっている。しかし、健康だけではなく、自分が幸せと実感できることも大切。地域毎に何を大切と考えるか。
  • メディアの活用を考える必要がある。例えば、高齢者は「ラジオ深夜便」を聞いているし、団塊の世代はデジタル・シニアであり、そのような状況を、どう活かすか。
  • これからの健康サポートで、エリア内で相談に乗ってくれる人が必要になる。日常の中で、ちょっと顔をだして、相談に乗ってもらえるところ。「大丈夫だよ」と一声かけてもらうことが不安を和らげる。それを、多様な形で地域に根付かせることが必要。
  • 病院での診察、服薬の履歴、病状など毎日、日記をつけていて、それをもとに医師に相談するなど、それぞれの人が工夫していることを分かち合うといい。

〔まとめ〕

  • 従来の健康は専門家主導であり、医療・保健からどう地域や暮らしに、介護からどう地域や暮らしに広げるのかという視点だった。
    しかし、それでは暮らし中心にならず、一般市民には届き切らない。地域、暮らしの領域の中に、どのように医療・保健・介護とつながる仕組みを入れるのかが大切であり、そこはヘルシータウンへのカギとなる。