あらかわヘルシータウン・クリエイティ部 第1回(2015年11月2日)レポート
医師、看護師、保健師、福祉従事者、製薬メーカー、荒川区民など多様なバックグランドをもつ27名が集まり、第1回が開催されました。
第1回は、企画者の菅野、広石から企画趣旨を説明し、参加者のみなさんと「ヘルシータウンって、なんだろう?」を考えました。
#1 ヘルシータウンを考える
健康なまちってなんだろう?
今回の企画趣旨
これまでの地域医療、在宅医療・介護は、「専門職によるサービス提供」が主で、住民は専門家をフォローする関係になりがちだった。
近年、専門家中心から「地域住民が主体で、住民を支える専門家」への役割の転換の必要性が指摘されているが、専門家側も住民側もコンセプトはわかっても、イメージがわいていない場合が多い。
本プログラムは、「健康な街」の実現へ専門家と住民が新しい役割分担で共にできることを考えるのが目的。
ただ、まだ地域住民が主体的に健康なまちをつくるには、何が本当の課題なのか、具体的に明確になっていない。そこで、第1シーズンは6つの視点から、課題を明確にすることをテーマにしたい。解決策を急がずに、まず問題を丁寧に探り、構造的な課題を見つけることが大切だと考えている。
健康な街って、なんだろう?
健康の定義の変化
- かつては、健康と病気の2分法(健康とは病気でない状況)という考え方だった。しかし、病気を抱えながら仕事をバリバリする人も増えているし、一見元気そうでも心を病む人もいるなかで、健康と病気は連続的なものという考え方、健康は心理・身体・社会・魂の4つが時間と共に相互作用しながら変化するダイナミックな連続体という考え方へと変わってきている。
- 例えば、従来の保健指導は、健診後に食事の個別指導など、「健康は個人の責任」となりがちだった。しかし、食事は、家族関係や仕事の付き合い、暮らす地域、生活の中で利用するサービスや目にする情報などに大きな影響を受けているように、健康は個人の問題ではなく、コミュニティや社会の責任も大きいという考え方が広がっている。
- 東埼玉総合病院では「コミュニティデザイン」担当者をおいているが、病院の中野智紀先生は、「問題は地域コミュニティで起きており、高齢化の最中でコミュニティヘルスが不足すると高齢者の悪循環が生じる」と指摘している。コミュニティヘルスが整っていないと、発見が遅れたり、対応が遅れたり、退院後のリスク管理ができないため、高い再入院率となってしまい、地域の医療資源が効果的に活かせなくなる。
- 健康の推進で有名なのは、オタワ憲章の「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにすること」という考え方。
Sally Gadowは「専門職の役割」を「ヘルスケアの提供者と受けるものとの間で相互にかかわりあいを増やしながら進めていく」「地域社会は変化に必要とされるあらゆる資質と資源を地域社会自体に包みこんでいる。地域社会とその関係者が望んだり、必要としている変化をもらたらす契機を与えること」と定義しており、従来の医師や保健師の指導という概念から変化していることがわかる。 - 広石が注目している2つの取り組み
一つは、英国ロンドンの社会的企業「ブロムリ・バイ・ボウ・センター」。イーストエンドの貧困地区で、90年代半ばに、ある若いがんの住民が社会サービスを受けられずに死んでいったことをきっかけに、住民が主体となって「困難な状況にある人」と「社会資源」を効果的に結び付ける事業を生み出していった。現在では、900プロジェクト、8億円の規模になり、住民を中心に150人の雇用を生み出している。
もう一つは、バンクーバー市の「Healthy City for All」。健康を包括的に捉え、12のテーマについて、市をあげて2025年までの目標を定めて、その実行に取り組んでいる。
Healthy City for All 12のターゲット
包括的な取り組みであることがわかる
- 健康な子ども時代を過ごせる環境づくり
- すべての市民が快適に暮らせる住宅 (ホームレスをなくし、支援が必要な人の住宅も充実する)
- 健康的で持続可能な食の仕組み (地産池消の推進)
- 社会・地域・健康サービスへの公平なアクセス
- 必要な生活コストを賄う収入と健康的な職場での仕事への幅広い機会
- 安心して暮らせる都市
- 当事者として地域に暮らすつながりの育成
- 自然やアクティブな生活を誰もができる機会
- 生涯にわたる学習と成長の機会
- 住民も観光客も享受できる多様で文化的な環境
- 安全に、快適に街を楽しめる交通等の環境
- 徒歩圏を充実させるまちづくり
Healthy City for All 推進の考え方
- 広く、包括的な健康や良い生活の理解
- 基本的な権利と自由を満たす
- 健康と良い生活をすべての人に
- 予防と上流から考える
- 健康と良い生活づくりはすべての人の仕事
- 健康な経済環境
- イノベーションが必要
- コレクティブ・インパクトを実現する
- 選択投資とアクションに基づく証明
- モニターし、評価し、コミュニケーションする
- 市は推進のリーダーシップとモデルづくりを担う
参加者による対話「健康なまちをつくるために何がハードルか?」 あげられた課題一覧
<交流が不足している>
- 若い世代と高齢世代との間に溝がある
- 古くからの住民と新しい住民の間にギャップがある
- 家族で問題を抱え込んでしまっている
- 町内会・行政との気楽な交流がない
- 気楽に相談できる近所の人がいない
- 一人暮らしの人に話をする人がいない
- 高齢者が孤立している
- 障がい者との地域交流がない
- 専門家が外に出てこない
<情報が得られない>
- 健康情報が多すぎてよくわからない
- 情報は提供されているものの、その情報を得ることができない
- 情報をコーディネートする人がいない
- 困ったときの相談窓口がわからない
- 社会資源がどこにあるかを知る機会が少ない
- 民生委員からの情報が活かせていない
- 予防のやり方がわからない
<環境が不十分>
- 集える場所がない
- 無条件で遊べる公園がなく、子どもが運動不足
- 医療施設が充実していない。病院が混みすぎている
- 子ども、若者の食生活が乱れている
- 運動の必要な人が運動できない
- 自然が少ない
- 道幅が狭く自転車事故が多い
<経済的な問題がある>
- 健康と地域のつながりにはお金がかかる
- 病気になるとお金がかかる
- お金がないと食事がきちんと取れない