自然資本への取り組み方は企業の信頼を左右する ~「6種類の資本(3) 」2025年のためのリーダーのための新常識 第11回

  6種類の資本(1)で、「資本」は財務資本中心から製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本も含めて総合的に考える必要があると書きました。その中で、「自然資本」も20世紀にはなじみがなかった概念です。

組織資本が利益の源泉となる ~「6種類の資本(2) 」2025年のためのリーダーのための新常識 第10回 

6種類の資本(1)では、これまで「資本」というと財務資本が中心で考えられてきましたが、これからは製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本と総合的に考える必要があると書きました。新しい5つの資本の中には、あまり馴染みのないもの、一般的なイメージと少し違う新しい定義のものもあります。
 例えば、「知的資本」と聞くと、多くの人は特許や商標権、著作権など「知的財産」を思い起こすでしょう。確かに、知的財産は知的資本の重要な構成要素です。しかし、国際統合報告ガイドラインの知的資本は、知的財産権に加えて、組織資本を含むとしています。
「組織資本」という言葉が注目されるようになったのは、比較的新しく2000年前後くらいからです。
最初のきっかけはIT化が進んでいるのに、なぜ多くの企業にとって、それが生産性を改善し利益率が向上することにつながらないのか、という疑問からでした。90年代後半、IT革命が盛んに言われた頃、IT化が進展すればどんどん生産性が上がり、人々は楽に利益を生み出せるようになるという意見もありました。もちろん、IT化によって業務が効率的にできるようになりましたが、そんなに仕事は楽になっていないし、IT化を進めるすべての会社の利益率があがる訳でもなく、むしろ格差は広がっている。それは、なぜなのか、研究が進んだのです。
そこで明らかになったのは、IT投資は、業務プロセスの再設計・再構成、それに適応した人材の育成や確保ができた場合に、数年間のタイムラグをもって生産性や企業のパフォーマンスが向上につながるということです。例えば、MITのErick Brynjolfsson教授の研究では、IT投資で効果をあげている企業は、組織資本や人的資本にハード投資額の約9倍の投資を行った後、3~7年以上の期間を経て効果を上げていることを実証しました。
これは、ITをいくら導入しても業務の進め方や意思決定のプロセス、人材の評価の方法などを変えなければ、大きな効果は出ないということです。例えば、「イントラネットでカレンダーを共有し、会議を効率化しようとしても、管理職が手帳でスケジュール管理しているので、結局、オンラインで決めれない」「他の部署にチャットで社員が勝手に連絡すると、正式なルートを通すべきという意見がでる」といったことは、社内情報化あるあるですが、これでは、いくらIT投資をしても、経営者とコンサルタントが立派な計画を作っても、現場での意思決定のスピードも生産性もあがりません。
これらは「小さなこと」ではなく、これらを放置している時点で、企業として「組織資本を向上していない」といえ、利益の源泉をつぶしていると判断されます。
このことは、2020年代に向けて大きな示唆を持っています。これからテクノロジーが進展し、ICTの一層の進展に加えて、AI、IoTなどがビジネスで重要な役割を果たすようになります。
いくら窓口をロボットにしても、IoTで顧客の利用情報が蓄積できても、それを導入することで、どう業務フローや意思決定プロセスを変えるのか、新しいプロセスを使いこなせる人材を確保し、その人材をリーダーとして新しいチームを作っていくのか、そのような組織資本の向上を行っていなければ、利益を生み出すことはできないでしょう。
社会も市場もテクノロジーも変化します。その変化に、単発や個人レベルで対応するのではなく、変化を活かせるような仕組みや組織のあり方を持っているのか、そして機敏に更新していけるのか。その「組織資本」を整えていけなければ、今いくら利益を出していても数年後の未来は危ないでしょう。
組織資本は、利益を生み出す元手として、ますます重要になっていくのです。
参考資料:宮川努ら「無形資産(組織資本および人的資本)と企業パフォーマンス」RIETE

イノベーションズアイ 連載コラムより

掲載サイト  http://www.innovations-i.com/column/2025leader/10.html

マテリアリティ: 会社の軸を問いかけ続ける ~2025年のためのリーダーのための新常識 第9回

変化が激しい時代、そして、ただ財務的な成功だけでなく多面的な視点から経営を考えていく必要が高まる時代に問われるのは、会社の「軸」となるものです。
何が会社の軸となるのか考えるキーワードとして、「マテリアリティ(materiality )」が注目されています。materiality とは「意味が大きいこと・必要不可欠」といった意味です。

もともと、この用語が広がるきっかけとなったのは、企業のアカウンタビリティを専門とするイギリスの非営利団体「AccountAblity」の「マテリアリティ・レポート」です。

企業にとって、「成功するために何をするか」が最も大切なことですが、それには、経営の戦略やマネジメント(内部環境)と、新たな社会・環境の状況(外部環境)の方向性があっていないといけません。社会・環境の何が制約か、どのような新しい収益機会が生まれているのかは絶えず変化しているため、外部環境に敏感になり、内部環境を適応させていくことが重要になります。
ただ、外部環境も内部環境も要素が多く、どう結び付けていけばいいかは難しい問題です。
その時に、必要なのは議論の軸です。いったい自分たちは何を最も大切にするのかを明確にすること(=マテリアリティの特定)が必要です。それが明確になることで、ただ変化への対応に追われるだけでなく、変化を学びと改革の促進に活かすことができます。

ただし、マテリアリティは経営者が認識しているだけでは実行できません。
社内にもステークホルダーにも、納得し、力を合わせていけるように、なぜそれが大切なのか信頼できる方法でそれを明確に示さなければならないのです。

それゆえ、何がマテリアリティか定めること以上に、下記のようにマテリアリティを使いこなすことが求められています。
・持続可能な発展の課題と経営戦略の整合性を明確にするプロセスを重視する
・企業とステークホルダー双方にとっての優先事項を積極的に反映した企業報告書、広範なコミュニケーションに取り組む
・新たな社会的諸課題と現在の経営戦略とのギャップを特定して、社内での議論や戦略展開に反映させる

ここで重視されているのは、変化する社会・経済・環境の中で、持続可能な企業を実現するために、何が大切か、社内で、また、ステークホルダーとコミュニケーションを続けることです。

経済も社会も環境も変化する時代には「今、力を入れるべきこと」は変化し続けます。
「自分たちの大切なことは、これだ」という答よりも、常に考え、コミュニケーションを続けることが大切になってきています。

かつては、「自社の強みはこれだ。重視することはこれだ」と明確にでき、それは大きくは変化しませんでした。
しかし、社会の状況の変化が、会社の経営にも大きな影響を与える時代、「一度、決めたこと」にこだわり続けると、気づかない間に取り残され、大きな損失を生み出すかもしれません。

大切なことを決めるよりも、大切なことをコミュニケーションし続けることが、これからのリーダーには求められるのです。

サンケイビジネスアイ 掲載サイト
http://www.innovations-i.com/column/2025leader/9.html

「6種類の資本」 これからのビジネスの“元手”となるものは何か ~2025年のリーダーのための新常識  第8回

資本主義の「資本」とは何なのか、改めて問われるようになっています。
資本というと、お金を最初に思い起こします。
マルクスは資本論において、モノとモノを交換する道具であった貨幣が、お金を使ってモノをつくり販売してお金を増やすように使われた時、資本になったと述べています。それを簡易に描くと、貨幣は「 モノ-  金 - モノ 」、資本は「金 - モノ - 金」となります。お金を増やすために使われるお金が資本という訳です。
事業を始めるには”元手”が必要となり、元手を維持し、増やすことが事業の目的です。
では、元手はお金だけでいいのか?というと、そうではありません。長らく事業には「ヒト、モノ、カネ」が必要だと言われてきました。ここで、ヒトは労働力、モノは資源や工場などのことでした。そうすると、カネがあることで質の高いヒトやモノを集めることができるとされ、「カネ」が最も重要な指針となりました。そこから大きく、良い会社とは、資本金の大きい会社のことを言うようになりました。
しかし、それが大きく変化していきています。
資本金が大きい会社、売上や最高益を出した会社が、2,3年後には転落し、経営危機を迎えるような状況が生じています。資本金や売上も大切ですが、それだけでは良い会社なのか、中長期的に成長する会社なのか、判断が付きにくくなっています。
そこで、組織がどのように長期にわたり価値を創造するかを説明できる必要性が高まり、財務情報だけでなく、非財務情報も併せた「統合報告」を公表する動きが広がっています。
この統合報告では、資本を「組織が価値を生み出す源泉」であり、かつ「価値の蓄積」としています。そして、組織が長期にわたり創造する価値は、資本が増加、減少、又は変換された形で現れると考えています。
例えば、組織が価値を生み出すには、自然の資源を利用する必要があるとします。自社が利用できる自然資源を使い、利益が出たというのは、自然資本が財務資本に転換されたと考えるのです。そうすると、自然資本に対する取り組みがない場合、長期的に見ると自然資本は失われ、それを使った利益を生み出せなくなり、結果的に財務資本も失われてしまうでしょう。
例えば、人材もそうです。財務資本の拡大のみを考え、従業員への研修をしなかったり、過酷な労働が続くと、アイデアを出す人が減り、長期間働く人も減ってくると、人的資本や知的資本が損なわれ、やがて、それは財務資本に影響を与えるでしょう。
世界が日々変化している中で、企業にイノベーションが求められる時代であり、自然環境破壊が深刻になっていく時代には、短期的な利益を追求することで、人や知恵、自然、関係性などを損なってしまうと、長期的に財務的な利益も生まれなくなる。そのことを概念や問題意識としてだけなく、企業がしっかりとガバナンスとマネジメントに組み込むことの大切さを指摘しているのです。
そこで、国際統合報告フレームワークでは「6種類の資本」をあげています。
財務資本 :株式、借入、寄付など
製造資本 :建物、設備など
知的資本 :組織的な、知識ベースの無形資産
  知的財産権、暗黙知、システム、手順及びプロトコルなどの「組織資本」
人的資本 :人々の能力、経験及びイノベーションへの意欲
  組織ガバナンス・フレームワーク、リスク管理アプローチ及び倫理的価値への同調と支持
  戦略を理解・開発し・実践する能力、社員のロイヤリティや意欲、
社会・関係資本 :多様なステークホルダーとの関係、情報を共有する能力
  共有された規範、共通の価値や行動、主要なステークホルダーとの関係性、
  外部のステークホルダーとともに構築し、保持に努める信頼及び対話の意思、
  ブランドや評判に関連する無形資産、組織が事業を営むことの社会的許諾
自然資本 :組織の過去、現在、将来の成功の基礎となる物・サービスを提供する
  全ての再生可能及び再生不可能な環境資源及びプロセス
  空気、水、土地、鉱物及び森林、生物多様性、生態系の健全性
この6種類がどのように増減し、相互に影響しあっているのか、企業は把握し、外部とコミュニケーションしていく必要があるとしています
この6種類がどのように増減し、相互に影響しあっているのか、企業は把握し、外部とコミュニケーションしていく必要があるとしています。
人材開発や働きやすさ、自然保護なども、「社会的責任を果たさないといけない」という消極的な意味ではなく、「自社が中長期的に存続し、発展していくための戦略」として問われるようになっています。
これからますます先が見えにくくなる中で、スタークホルダーからの長期的な信頼を得るために、2020年代に向かって6種類の資本のガバナンスが、とても大切な経営テーマとなっていくでしょう。
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