2025年のリーダーのための新常識  第7回 「ソーシャルキャピタル 」 自分に問いかけてみてください。関係性の質が中長期投資を呼び込む

自分に問いかけてみてください。

新しいことを始めようとした時、あなたが困難な状況にある時に、損得を考えずに、手伝ってくれる人、助けてくれる人は、何人くらいいるでしょうか?
もし、たくさんの人の顔が浮かぶなら、あなたは豊かなソーシャルキャピタルを持っていると言えます。
ソーシャルキャピタル(社会関係資本)という概念が知られるようになった一つのきっかけは、アメリカの政治学者R.D.パットナムの「孤独なボウリング」という書籍です。 パットナムは、アメリカでは1980年から93年の間にボウリングを楽しむ人は10%増加しましたが、クラブに所属してボウリングをする人は40%減少していると気づきました。仲間やグループでなく、一人で行う人が増えたのです。そして、地域のグループ活動の減少は政治参加や地域の豊かさなどにも相関が見らました。つまり、「孤独なボウリング」の情景は、仲間同士の会話や社会的交流の経験が失われ、地域のソーシャルキャピタルが減衰していることの象徴なのです。
そして、ソーシャルキャピタルを「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワーク」と考えたのです。
日本では、近年、マラソンなど一人で行うスポーツの人気は高まっていますが、チームスポーツを行う人は減っているようです。場所不足もあるでしょうが、地域のソーシャルキャピタルが弱まっていることも関係しているでしょう。
このようにソーシャルキャピタルの概念は、当初、社会学で広がりましたが、経済や経営にも広がっています。
例えば、異業種交流課に参加し、名刺をたくさん集め、知り合いが増えたとしても、それがなかなかビジネスに結びつくことは少ないようです。必要なのは、営業先候補や自分の情報を伝える相手の情報であり、相手と関係性を培っていこうとしていないからでしょう。名刺交換が主の異業種交流会は、ソーシャルキャピタルを豊かにする機会になっていないのです。
会社について考えてみると、売上額が大きく、知っている人も多いのに、尊敬されていない会社、その会社の姿勢や考え方、社員のファンの少ない会社もあります。
そのような会社は、売上高がよく、成長している間は注目されますが、成長が止まったり、失敗したりすると人は離れていきます。そして、そのような会社は、短期的、利益目的の投資は集まっても、先が見えない時代に中長期的な投資は集まりにくいでしょう。
金銭的な信頼だけでなく、関係性に基づく信頼を、ステークホルダーとどれくらい構築できているかというソーシャルキャピタルは、中長期的な投資の重要な判断材料になってきているのです。
今は、ある年に最高益を出した事業が2、3年後には赤字になるということが頻繁に起きる時代です。今、財務が良くても、それだけでは中長期的な投資を行うことは難しくなっています。
国際的な「統合報告」の動きの中で「社会・関係資本」は「財務資本」と並び、6つの資本の一つとされています。統合報告ガイドラインでは社会・関係資本を、「個々のコミュニティ、ステークホルダー・グループ、その他のネットワーク間又はそれら内部の機関や関係、及び個別的・集合的幸福を高めるために情報を共有する能力」としています。
ステークホルダーと、規範や価値、行動を共有しているのか。組織への信頼を外部のステークホルダーとともに構築し、保持に努めているか。そして、対話の意思があるのか。それが、企業を評価するうえで、財務の結果と同様に大切だと考えられるようになっています。
もし停滞した時があっても、この会社なら可能性があると信頼してくれる人がいるか、新しいことを始める時に成功するかどうかわからなくても、一緒にトライしてくれる人がどれだけいるのか。それが中長期的な成長の基盤となるソーシャルキャピタルです。
経済・社会の変化が激しくなる時代に、中長期的な投資を呼び込む信頼を構築するには、どのようなステークホルダーと、どのように関係し、どのような対話を行っているのかが、ますます大切になるのです。
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